ストーリー
田
田中VPoE
理論を学んだ。ここからは実践だ。実際の組織シナリオを使って、マルチクラウド適性を診断してもらう
田
田中VPoE
そうだ。AWSに集中しているうちのインフラを棚卸しし、ベンダーロックインのリスクを評価し、最適な戦略パターンを提案してくれ。CTOに提出するレベルのアウトプットを期待している
あなた
棚卸し、ロックイン評価、戦略パターン選定 — 一通りやるわけですね
あ
田
田中VPoE
その通り。Step 1で学んだすべてを統合する演習だ
ミッション概要
| 項目 | 内容 |
|---|
| 演習タイトル | マルチクラウド適性診断 |
| 想定時間 | 60分 |
| 成果物 | マルチクラウド適性診断レポート(棚卸し + ロックイン評価 + 戦略提案) |
| 対象組織 | TechServe株式会社(架空) |
前提条件
組織の概要
会社概要:
会社名: TechServe株式会社(架空)
事業: BtoB SaaS(統合業務管理ツール)
社員数: 800名
開発部門: 300名
売上: 年間120億円
顧客数: 5,000社(うち大企業500社)
設立: 2012年
インフラ体制:
クラウドインフラチーム: 30名
SREチーム: 15名
セキュリティチーム: 10名
月間クラウド費用: 約8,000万円(すべてAWS)
現在のAWSサービス利用状況
| サービス | 用途 | 規模 | 月間コスト |
|---|
| EKS | メインアプリケーション基盤 | 5クラスタ、200ノード | 2,500万円 |
| Aurora PostgreSQL | メインDB | 3クラスタ(マルチAZ) | 1,200万円 |
| DynamoDB | セッション管理、設定データ | 12テーブル | 300万円 |
| S3 | ファイルストレージ、バックアップ | 500TB | 400万円 |
| CloudFront | CDN | 月間100TB配信 | 500万円 |
| Lambda | 非同期処理、バッチ | 150関数 | 200万円 |
| SQS/SNS | メッセージング | 50キュー、20トピック | 100万円 |
| ElastiCache | Redis キャッシュ | 3クラスタ | 400万円 |
| Redshift | データウェアハウス | 1クラスタ | 800万円 |
| CloudWatch | 監視 | 全サービス | 300万円 |
| その他 | Route53, WAF, KMS等 | - | 1,300万円 |
IaC・運用ツールの状況
| 項目 | 状況 |
|---|
| IaC | CloudFormation(80%)、一部Terraform(20%) |
| CI/CD | GitHub Actions + AWS CodeDeploy |
| 監視 | CloudWatch + PagerDuty |
| ログ | CloudWatch Logs + OpenSearch |
| APM | X-Ray |
| 認証基盤 | Cognito(顧客向け)、IAM(社内) |
直近の課題・要件
| 課題/要件 | 詳細 |
|---|
| 可用性 | 先月のAWSリージョン障害で2時間のサービス停止。SLA 99.99%を顧客に約束 |
| コスト増加 | 前年比130%でクラウドコストが増加中。CFOから抑制要求 |
| データ分析 | Redshiftの性能限界。データサイエンスチームがBigQuery利用を希望 |
| グローバル展開 | 来年度からEU展開予定。GDPR対応が必要 |
| Enterprise連携 | 大企業顧客の40%がMicrosoft 365を利用。SSO連携の要望多数 |
Mission 1: クラウド利用状況の棚卸し
要件
前提条件の情報をもとに、TechServe社のAWS利用状況を5つの評価軸で棚卸ししてください。
- インベントリ分類(サービスカテゴリ別の整理)
- 依存度スコアリング(各サービスの1〜5評価と根拠)
- コスト構造分析(カテゴリ別コスト比率とトレンド分析)
解答例
インベントリ分類
| カテゴリ | 利用サービス | 月間コスト | コスト比率 |
|---|
| コンピュート | EKS, Lambda | 2,700万円 | 33.8% |
| データベース | Aurora, DynamoDB, ElastiCache | 1,900万円 | 23.8% |
| ストレージ | S3 | 400万円 | 5.0% |
| ネットワーク/配信 | CloudFront, Route53 | 600万円 | 7.5% |
| 分析 | Redshift | 800万円 | 10.0% |
| メッセージング | SQS, SNS | 100万円 | 1.3% |
| 運用/監視 | CloudWatch, X-Ray | 400万円 | 5.0% |
| その他 | WAF, KMS, Cognito等 | 1,100万円 | 13.8% |
依存度スコアリング
| サービス | 依存度 | 根拠 |
|---|
| EKS | 2 | Kubernetesベースで他クラウドのK8sに移行可能 |
| Aurora PostgreSQL | 2 | PostgreSQL互換で移行可能。ただしAurora固有機能利用時は3 |
| DynamoDB | 4 | 固有データモデル。12テーブル分のスキーマ再設計が必要 |
| S3 | 2 | S3互換APIが他社にもある。ただし500TBのデータ移行コスト大 |
| CloudFront | 2 | CDNサービスは代替が多い |
| Lambda | 3 | 150関数の移行が必要。トリガー連携の再構築も |
| SQS/SNS | 2 | 標準的なメッセージングで代替可能 |
| ElastiCache | 2 | Redisベースで移行可能 |
| Redshift | 3 | 固有SQLやビュー定義の移行が必要 |
| CloudWatch | 3 | 全監視がCloudWatchに依存。ダッシュボード・アラート再構築要 |
| Cognito | 4 | 認証フロー全体の再構築が必要。顧客影響あり |
| CloudFormation | 4 | IaCの80%がCFn。全面書き直しが必要 |
コスト構造分析
- 最大コスト: コンピュート(33.8%) → EKSノードの最適化が最優先
- 増加傾向: 前年比130%増 → 主にEKSとRedshiftの拡大
- 最適化余地: RI/SP適用率が不明だが、安定ワークロード(EKS、Aurora)にSavings Plansを適用すれば20-30%削減の可能性
Mission 2: ベンダーロックイン評価
要件
棚卸し結果をもとに、LACE評価モデルでロックインリスクを評価してください。
- 主要サービス(8つ以上)のLACEスコアリング
- リスクレベル別の分類
- 上位3つのロックインリスクに対する緩和策
解答例
LACEスコアリング
| サービス | Level | Area | Cost | Effort | 合計 | リスク |
|---|
| EKS | 1 | 3 | 2 | 2 | 8 | 中 |
| Aurora PostgreSQL | 2 | 4 | 2 | 3 | 11 | 中 |
| DynamoDB | 4 | 3 | 3 | 4 | 14 | 高 |
| S3 | 1 | 4 | 3 | 3 | 11 | 中 |
| Lambda | 3 | 3 | 2 | 3 | 11 | 中 |
| Redshift | 3 | 3 | 3 | 3 | 12 | 高 |
| Cognito | 4 | 4 | 4 | 4 | 16 | 極めて高 |
| CloudFormation | 4 | 5 | 3 | 4 | 16 | 極めて高 |
上位3ロックインリスクと緩和策
| 順位 | サービス | スコア | 緩和策 |
|---|
| 1 | CloudFormation | 16 | Terraformへの段階的移行。新規リソースはTerraformで作成し、既存CFnは優先度順に変換 |
| 2 | Cognito | 16 | 認証フローの抽象化レイヤー導入。OIDC/SAML標準プロトコルへの移行を検討。Auth0等のマルチクラウド対応IdPも選択肢 |
| 3 | DynamoDB | 14 | アプリケーションのRepository層で抽象化。新機能ではPostgreSQLを優先検討。既存テーブルは段階的に移行計画策定 |
Mission 3: マルチクラウド戦略パターンの提案
要件
棚卸しとロックイン評価の結果、および直近の課題・要件を踏まえて、最適なマルチクラウド戦略を提案してください。
- 推奨する戦略パターン(複合可)とその選定理由
- クラウド配置の概要設計(どのワークロードをどのクラウドに配置するか)
- 段階的な実行ロードマップ(3フェーズ、18ヶ月)
- 概算コストと期待効果
解答例
推奨戦略パターン
「ベストオブブリード + 規制対応」の複合戦略
| 選定理由 | 詳細 |
|---|
| データ分析のニーズ | Redshiftの限界 → GCP BigQueryでベストオブブリード |
| GDPR対応 | EU展開 → 規制対応型でEUリージョン活用 |
| Enterprise連携 | Microsoft 365連携 → Azure Entra IDで認証統合 |
| 可用性向上 | 副次的にDR/BCP分散の効果も得られる |
クラウド配置概要
| クラウド | 役割 | 配置ワークロード |
|---|
| AWS | メインクラウド(コア業務基盤) | EKS、Aurora、S3、CloudFront |
| GCP | データ分析・AI基盤 | BigQuery、Vertex AI、Looker |
| Azure | Enterprise連携・EU展開 | Entra ID(SSO)、EU向けサービス |
ロードマップ
| フェーズ | 期間 | 施策 |
|---|
| Phase 1 | 0-6ヶ月 | CFn→Terraform移行開始、GCP BigQuery PoC、Azure Entra ID SSO検証 |
| Phase 2 | 6-12ヶ月 | Redshift→BigQuery移行、Azure SSO本番導入、Cognito抽象化 |
| Phase 3 | 12-18ヶ月 | EU向けAzure環境構築、マルチクラウド統合監視、FinOps体制確立 |
概算コスト・効果
| 項目 | 金額 |
|---|
| 移行コスト(18ヶ月) | 約1.5億円(人件費含む) |
| 月間クラウド費用(移行後) | 約7,200万円(現状8,000万円から10%削減) |
| 年間コスト削減効果 | 約9,600万円 |
| 追加効果 | 可用性向上(SLA 99.99%達成)、EU展開基盤、Enterprise顧客獲得 |
達成度チェック
| 観点 | 達成基準 |
|---|
| 棚卸し | 5つの評価軸で体系的にクラウド利用状況を整理できている |
| ロックイン評価 | LACEモデルで定量的にリスク評価し、優先順位付けができている |
| 戦略提案 | 課題・要件に基づいた合理的な戦略パターンの選定理由がある |
| 実行計画 | フェーズ分けされた実行可能なロードマップがある |
| コスト試算 | 移行コストと期待効果の概算が示されている |
推定所要時間: 60分