LESSON 30分

ストーリー

田中VPoE
マルチクラウドの検討を始める前に、まずは現状を正確に把握する必要がある。うちのAWS利用状況を体系的に棚卸ししよう
あなた
AWS Consoleを見ればわかるのでは?
田中VPoE
Consoleだけでは不十分だ。どのサービスをどの目的で使っているか、依存度はどの程度か、移行の容易さはどうか — 戦略的な判断に必要な情報を体系的に整理する必要がある
あなた
なるほど。使っているサービスの一覧だけでなく、ビジネスとの紐付けも含めて棚卸しするんですね
田中VPoE
その通り。クラウド利用の全体像が見えないまま「マルチクラウドにしよう」と言っても、何を移すべきで何を残すべきかの判断ができない

クラウド棚卸しフレームワーク

5つの評価軸

評価軸目的主な項目
インベントリ何を使っているかの把握利用サービス一覧、リソース数、リージョン
依存度分析どの程度依存しているかの評価マネージドサービス利用度、独自機能の利用状況
コスト構造お金の流れの把握サービス別コスト、コスト推移、契約形態
技術的結合度移行の難易度の評価API依存、SDK利用、IaC対応状況
運用成熟度運用体制の評価監視、CI/CD、インシデント対応、スキルレベル

評価軸 1: インベントリの整理

サービスカテゴリ別の棚卸し

カテゴリAWSサービス例棚卸し項目
コンピュートEC2, ECS, Lambda, EKSインスタンス数、コンテナ数、関数数、クラスタ数
ストレージS3, EBS, EFSバケット数、総容量、アクセス頻度
データベースRDS, DynamoDB, ElastiCacheインスタンス数、エンジン種別、データ量
ネットワークVPC, CloudFront, Route 53VPC数、ドメイン数、トラフィック量
セキュリティIAM, KMS, WAFユーザー数、キー数、ルール数
分析Athena, Redshift, Glueクエリ量、データ量、パイプライン数
AI/MLSageMaker, Bedrockモデル数、推論エンドポイント数
運用CloudWatch, CloudTrailメトリクス数、ログ量

リソースタグ戦略

タグによるリソース分類:

必須タグ:
├── Environment: production / staging / development
├── Service: user-api / payment-service / analytics
├── Team: backend / frontend / data / sre
├── CostCenter: engineering / marketing / sales
└── Criticality: high / medium / low

推奨タグ:
├── MigrationEligibility: eligible / not-eligible / under-review
├── CloudPortability: high / medium / low
└── DataClassification: public / internal / confidential / restricted

評価軸 2: 依存度分析

クラウド依存度スコアリング

依存度レベルスコア特徴
1業界標準の技術で構築。移行が容易EC2上のDockerコンテナ、S3互換のオブジェクトストレージ
2クラウド固有の設定があるが代替可能RDS(PostgreSQL)、ECS
3マネージドサービスに深く依存DynamoDB、Aurora Serverless
極めて高4クラウド固有の機能に密結合Lambda + API Gateway + Step Functions統合
ロックイン5移行にはアプリケーションの書き直しが必要AppSync + Amplify + Cognito統合

依存度マトリクス

                   ビジネス重要度
                 低      中      高
依存度   低  │ 監視のみ │ 標準管理 │ 慎重管理 │
スコア   中  │ 標準管理 │ 計画策定 │ 移行検討 │
         高  │ 計画策定 │ 移行検討 │ 最優先   │

評価軸 3: コスト構造の分析

コスト分析の観点

観点分析内容ツール
サービス別どのサービスにいくら使っているかAWS Cost Explorer
チーム別どのチームがいくら使っているかタグベースの配賦
環境別本番/ステージング/開発の比率環境タグ
契約形態オンデマンド/RI/SP/スポットの割合Savings Plans利用状況
データ転送リージョン間、インターネット向け通信コストVPC Flow Logs分析
トレンド月次の増減傾向過去12ヶ月の推移

コスト最適化余地の評価

項目確認ポイント
未使用リソース稼働していないEC2、未アタッチのEBS、古いスナップショット
過剰プロビジョニングCPU/メモリ使用率が20%未満のインスタンス
RI/SP未適用安定稼働ワークロードのオンデマンド利用
ストレージ階層S3 Standardに置かれた低頻度アクセスデータ
データ転送不要なクロスリージョン通信

評価軸 4: 技術的結合度

結合度の評価基準

項目低結合(移行容易)高結合(移行困難)
アプリケーションコンテナ化済み、12 Factor App準拠クラウド固有SDKに密結合
データベースPostgreSQL/MySQL(標準SQL)DynamoDB固有のクエリパターン
ストレージS3互換API利用S3イベント通知+Lambda連携
認証認可OIDC/SAML標準プロトコルCognito固有機能
IaCTerraform(マルチクラウド対応)CloudFormation/CDK(AWS専用)
CI/CDGitHub Actions(クラウド非依存)CodePipeline/CodeBuild
監視Datadog/Grafana(マルチクラウド対応)CloudWatch固有メトリクス

評価軸 5: 運用成熟度

スキルと体制の棚卸し

項目評価観点
チームスキルAWS認定資格の保有状況、他クラウドの経験
運用プロセスインシデント対応、変更管理、リリースプロセスの成熟度
自動化レベルIaCカバー率、CI/CDの自動化範囲
監視体制アラート設計、オンコール体制、SLI/SLO定義
ドキュメントアーキテクチャ図、運用手順書の整備状況

まとめ

ポイント内容
棚卸しの重要性現状を正確に把握しないまま戦略を立てても実行できない
5つの評価軸インベントリ、依存度、コスト、技術的結合度、運用成熟度
依存度スコアリング1〜5のスケールで各サービスの依存度を定量評価する
コスト構造サービス別、チーム別、環境別でコストの全体像を把握する

チェックリスト

  • クラウド棚卸しの5つの評価軸を理解した
  • 依存度スコアリングの基準を理解した
  • コスト構造の分析観点を理解した
  • 技術的結合度の評価基準を理解した

次のステップへ

次は「ベンダーロックインの理解と評価」を学びます。棚卸しの結果をもとに、ベンダーロックインのリスクを体系的に評価する方法を身につけましょう。


推定読了時間: 30分