ストーリー
田
田中VPoE
マルチクラウドの検討を始める前に、まずは現状を正確に把握する必要がある。うちのAWS利用状況を体系的に棚卸ししよう
あなた
AWS Consoleを見ればわかるのでは?
あ
田
田中VPoE
Consoleだけでは不十分だ。どのサービスをどの目的で使っているか、依存度はどの程度か、移行の容易さはどうか — 戦略的な判断に必要な情報を体系的に整理する必要がある
あなた
なるほど。使っているサービスの一覧だけでなく、ビジネスとの紐付けも含めて棚卸しするんですね
あ
田
田中VPoE
その通り。クラウド利用の全体像が見えないまま「マルチクラウドにしよう」と言っても、何を移すべきで何を残すべきかの判断ができない
クラウド棚卸しフレームワーク
5つの評価軸
| 評価軸 | 目的 | 主な項目 |
|---|
| インベントリ | 何を使っているかの把握 | 利用サービス一覧、リソース数、リージョン |
| 依存度分析 | どの程度依存しているかの評価 | マネージドサービス利用度、独自機能の利用状況 |
| コスト構造 | お金の流れの把握 | サービス別コスト、コスト推移、契約形態 |
| 技術的結合度 | 移行の難易度の評価 | API依存、SDK利用、IaC対応状況 |
| 運用成熟度 | 運用体制の評価 | 監視、CI/CD、インシデント対応、スキルレベル |
評価軸 1: インベントリの整理
サービスカテゴリ別の棚卸し
| カテゴリ | AWSサービス例 | 棚卸し項目 |
|---|
| コンピュート | EC2, ECS, Lambda, EKS | インスタンス数、コンテナ数、関数数、クラスタ数 |
| ストレージ | S3, EBS, EFS | バケット数、総容量、アクセス頻度 |
| データベース | RDS, DynamoDB, ElastiCache | インスタンス数、エンジン種別、データ量 |
| ネットワーク | VPC, CloudFront, Route 53 | VPC数、ドメイン数、トラフィック量 |
| セキュリティ | IAM, KMS, WAF | ユーザー数、キー数、ルール数 |
| 分析 | Athena, Redshift, Glue | クエリ量、データ量、パイプライン数 |
| AI/ML | SageMaker, Bedrock | モデル数、推論エンドポイント数 |
| 運用 | CloudWatch, CloudTrail | メトリクス数、ログ量 |
リソースタグ戦略
タグによるリソース分類:
必須タグ:
├── Environment: production / staging / development
├── Service: user-api / payment-service / analytics
├── Team: backend / frontend / data / sre
├── CostCenter: engineering / marketing / sales
└── Criticality: high / medium / low
推奨タグ:
├── MigrationEligibility: eligible / not-eligible / under-review
├── CloudPortability: high / medium / low
└── DataClassification: public / internal / confidential / restricted
評価軸 2: 依存度分析
クラウド依存度スコアリング
| 依存度レベル | スコア | 特徴 | 例 |
|---|
| 低 | 1 | 業界標準の技術で構築。移行が容易 | EC2上のDockerコンテナ、S3互換のオブジェクトストレージ |
| 中 | 2 | クラウド固有の設定があるが代替可能 | RDS(PostgreSQL)、ECS |
| 高 | 3 | マネージドサービスに深く依存 | DynamoDB、Aurora Serverless |
| 極めて高 | 4 | クラウド固有の機能に密結合 | Lambda + API Gateway + Step Functions統合 |
| ロックイン | 5 | 移行にはアプリケーションの書き直しが必要 | AppSync + Amplify + Cognito統合 |
依存度マトリクス
ビジネス重要度
低 中 高
依存度 低 │ 監視のみ │ 標準管理 │ 慎重管理 │
スコア 中 │ 標準管理 │ 計画策定 │ 移行検討 │
高 │ 計画策定 │ 移行検討 │ 最優先 │
評価軸 3: コスト構造の分析
コスト分析の観点
| 観点 | 分析内容 | ツール |
|---|
| サービス別 | どのサービスにいくら使っているか | AWS Cost Explorer |
| チーム別 | どのチームがいくら使っているか | タグベースの配賦 |
| 環境別 | 本番/ステージング/開発の比率 | 環境タグ |
| 契約形態 | オンデマンド/RI/SP/スポットの割合 | Savings Plans利用状況 |
| データ転送 | リージョン間、インターネット向け通信コスト | VPC Flow Logs分析 |
| トレンド | 月次の増減傾向 | 過去12ヶ月の推移 |
コスト最適化余地の評価
| 項目 | 確認ポイント |
|---|
| 未使用リソース | 稼働していないEC2、未アタッチのEBS、古いスナップショット |
| 過剰プロビジョニング | CPU/メモリ使用率が20%未満のインスタンス |
| RI/SP未適用 | 安定稼働ワークロードのオンデマンド利用 |
| ストレージ階層 | S3 Standardに置かれた低頻度アクセスデータ |
| データ転送 | 不要なクロスリージョン通信 |
評価軸 4: 技術的結合度
結合度の評価基準
| 項目 | 低結合(移行容易) | 高結合(移行困難) |
|---|
| アプリケーション | コンテナ化済み、12 Factor App準拠 | クラウド固有SDKに密結合 |
| データベース | PostgreSQL/MySQL(標準SQL) | DynamoDB固有のクエリパターン |
| ストレージ | S3互換API利用 | S3イベント通知+Lambda連携 |
| 認証認可 | OIDC/SAML標準プロトコル | Cognito固有機能 |
| IaC | Terraform(マルチクラウド対応) | CloudFormation/CDK(AWS専用) |
| CI/CD | GitHub Actions(クラウド非依存) | CodePipeline/CodeBuild |
| 監視 | Datadog/Grafana(マルチクラウド対応) | CloudWatch固有メトリクス |
評価軸 5: 運用成熟度
スキルと体制の棚卸し
| 項目 | 評価観点 |
|---|
| チームスキル | AWS認定資格の保有状況、他クラウドの経験 |
| 運用プロセス | インシデント対応、変更管理、リリースプロセスの成熟度 |
| 自動化レベル | IaCカバー率、CI/CDの自動化範囲 |
| 監視体制 | アラート設計、オンコール体制、SLI/SLO定義 |
| ドキュメント | アーキテクチャ図、運用手順書の整備状況 |
まとめ
| ポイント | 内容 |
|---|
| 棚卸しの重要性 | 現状を正確に把握しないまま戦略を立てても実行できない |
| 5つの評価軸 | インベントリ、依存度、コスト、技術的結合度、運用成熟度 |
| 依存度スコアリング | 1〜5のスケールで各サービスの依存度を定量評価する |
| コスト構造 | サービス別、チーム別、環境別でコストの全体像を把握する |
チェックリスト
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次は「ベンダーロックインの理解と評価」を学びます。棚卸しの結果をもとに、ベンダーロックインのリスクを体系的に評価する方法を身につけましょう。
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