振り返りとKPT
ストーリー
「スプリントが終わったら、何をする?」
渡辺マネージャーが聞いた。
「次のスプリントの計画ですか?」
「その前に、今回のスプリントを振り返る。 振り返りなしに次に進むのは、 テストなしにリリースするのと同じだ。 同じ失敗を繰り返さない。良かったことは続ける。 KPTという手法を使おう」
振り返りの重要性
なぜ振り返るのか
振り返りなし:
Sprint 1: 問題A発生 → 応急処置で対応
Sprint 2: 問題A再発 → また応急処置
Sprint 3: 問題A + 問題B発生 → さらに忙しく
Sprint 4: 問題A + B + C → チームが疲弊
→ 同じ問題が繰り返され、チームの速度が低下
振り返りあり:
Sprint 1: 問題A発生 → 振り返りで根本原因を特定
Sprint 2: 問題Aの対策を実施 → 問題A解消
Sprint 3: 新しい問題Bが発生 → 振り返りで対策
Sprint 4: 問題A, B解消。チームの速度が向上
→ 継続的に改善され、チームが成長
KPT法
KPTは、振り返りの最も基本的なフレームワークです。
KPTの3要素
| 要素 | 意味 | 質問 |
|---|---|---|
| Keep | 良かったこと。続けたいこと | 「何がうまくいったか?」 |
| Problem | 問題だったこと。困ったこと | 「何がうまくいかなかったか?」 |
| Try | 次に試したいこと。改善策 | 「次のスプリントで何を試すか?」 |
KPTの進め方
1. 準備(5分)
- ホワイトボードかMiroボードを準備
- K, P, T の3エリアを作る
2. 個人ワーク(10分)
- 各自が付箋にK, P, Tを書き出す(1枚1項目)
- 最低各カテゴリ2枚以上
3. 共有(15分)
- 1人ずつ付箋を貼りながら説明
- 似ている項目はグルーピング
4. 議論(15分)
- Problemから優先順位をつけて議論
- 具体的なTry(改善アクション)を決める
5. アクション決定(5分)
- Tryから次のスプリントで実行する項目を3つ以内に絞る
- 担当者を決める
KPTの実例
あるスプリントのKPT
┌────────────────────────────────────────────┐
│ Keep(良かったこと) │
├────────────────────────────────────────────┤
│ ・PRレビューSLAが機能している(24h以内達成率90%) │
│ ・デイリースタンドアップが15分以内に収まった │
│ ・鈴木さんが自力でバグ修正できるようになった │
│ ・ドキュメントの整備が進んだ │
├────────────────────────────────────────────┤
│ Problem(問題だったこと) │
├────────────────────────────────────────────┤
│ ・見積もりが甘く、3タスクが未完了 │
│ ・水曜の障害対応で半日失われた │
│ ・テスト環境が不安定で作業が中断された │
│ ・リモートの佐藤さんへの情報共有が不十分 │
├────────────────────────────────────────────┤
│ Try(次に試すこと) │
├────────────────────────────────────────────┤
│ ・見積もりに1.3倍の補正係数をかける [あなた] │
│ ・テスト環境の安定化タスクをスプリントに入れる [田中] │
│ ・#decisions チャンネルへの投稿を徹底する [全員] │
└────────────────────────────────────────────┘
良い振り返りのポイント
1. 心理的安全性を確保する
振り返りの冒頭で宣言:
「振り返りの目的はチームの改善であり、
個人を責めることではありません。
率直な意見を歓迎します。
発言は外に持ち出しません」
2. 事実ベースで話す
NG: 「田中さんのコードの品質が悪い」(主観・攻撃的)
OK: 「今回のスプリントでバグが5件発生しました。
テストカバレッジが低い部分に集中しています」(事実ベース)
3. Tryは具体的なアクションにする
| 悪いTry | 良いTry |
|---|---|
| 「コミュニケーションを改善する」 | 「毎朝Slackに今日の予定を投稿する」 |
| 「テストをもっと書く」 | 「新規コードのカバレッジ80%をCIで必須にする」 |
| 「見積もりを正確にする」 | 「見積もりに1.3倍の補正係数をかける」 |
4. Tryは3つまでに絞る
多すぎるTry → 全て中途半端に
3つに絞る → 確実に実行して効果を測定
次のスプリントのTry:
1. 見積もりに1.3倍補正 [あなた]
2. テスト環境安定化 [田中]
3. #decisions投稿の徹底 [全員]
他の振り返り手法
Start / Stop / Continue
| 要素 | 質問 |
|---|---|
| Start | 新しく始めるべきことは? |
| Stop | やめるべきことは? |
| Continue | 続けるべきことは? |
4Ls(Liked, Learned, Lacked, Longed for)
| 要素 | 質問 |
|---|---|
| Liked | 気に入ったことは? |
| Learned | 学んだことは? |
| Lacked | 足りなかったことは? |
| Longed for | 欲しかったことは? |
タイムラインレトロスペクティブ
スプリントの出来事を時系列に並べ、感情の変化を可視化する手法です。
感情
嬉しい │ ★ ★
│ ★ ★
普通 │ ★ ★ ★
│ ★
辛い │ ★ ← 障害発生
└───────────────── ─→ 日
月 火 水 木 金
振り返りの定着
振り返りの頻度
| レベル | 頻度 | 対象 |
|---|---|---|
| 個人 | 毎日 | 日報の「学んだこと」セクション |
| スプリント | 2週間ごと | チーム全体でKPT |
| プロジェクト | プロジェクト完了時 | プロジェクト全体の学び |
| 四半期 | 3ヶ月ごと | チームの働き方全体 |
Tryの追跡
前回のTryが実行されたかを、次の振り返りの 冒頭で確認します。
前回のTry確認:
1. 見積もりに1.3倍補正 → ✓ 実施。精度が向上
2. テスト環境安定化 → ✓ Docker化で安定
3. #decisions投稿の徹底 → △ 6割実施。引き続き継続
まとめ
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| KPTの目的 | チームの継続的な改善 |
| K(Keep) | 良かったこと、続けること |
| P(Problem) | 問題だったこと、困ったこと |
| T(Try) | 具体的な改善アクション(3つまで) |
| 心理的安全性 | 個人を責めず、事実ベースで議論 |
| 追跡 | 前回のTryの実施状況を確認 |
チェックリスト
- KPTの進め方を説明できる
- 具体的なTry(改善アクション)を設定できる
- 心理的安全性を確保した振り返りの進め方を知っている
- 振り返りの頻度と対象レベルを理解した
次のステップへ
次は演習です。ここまで学んだプロジェクト計画、リスク管理、ステークホルダー管理、振り返りの技術を使って、困難なプロジェクトシミュレーションに挑戦しましょう。
推定読了時間: 30分