悪いニュースの伝え方
ストーリー
金曜の午後。あなたは焦っていた。
来週月曜がリリース日なのに、テストで重大なバグが見つかった。 修正には最低2日かかりそうだ。
「渡辺さんに報告しなきゃ......でも、怒られるかな...... 月曜までに何とかなるかもしれないし......」
渡辺マネージャーがたまたま通りかかった。
「何か困ってるのか?」
あなたは意を決して報告した。
「実は......リリース前テストで重大なバグが......」
渡辺マネージャーは真剣な表情で聞いた後、こう言った。
「報告してくれてありがとう。金曜の今聞けたから、 週末のうちに関係者に連絡して、月曜の対応を準備できる。 もし月曜の朝に聞いていたら、パニックになっていたよ」
なぜ悪いニュースを早く伝えるべきか
時間と選択肢の関係
問題発生 期限
│ │
▼ ← 早期報告 ▼
│ 選択肢: A, B, C, D, E │
│ 時間的余裕: 十分 │
│ │
│ ← 中間報告 │
│ 選択肢: A, B, C │
│ 時間的余裕: ある程度 │
│ │
│ ← 直前報告 │
│ 選択肢: Aのみ │
│ 時間的余裕: なし │
報告が遅れるほど、選択肢が減り、対応が厳しくなります。
早期報告で得られるもの
| 早期報告のメリット | 遅延報告のデメリット |
|---|---|
| 対策の選択肢が多い | 「やるしかない」の一択 |
| マネージャーが調整できる | 調整する時間がない |
| チームの応援を得られる | 1 人で抱え込む |
| 信頼が維持される | 「なぜ言わなかった」と信頼を失う |
| ストレスが軽減される | 不安が膨らみ続ける |
悪いニュースの伝え方フレームワーク: STAR
| 要素 | 英語 | 内容 |
|---|---|---|
| S | Situation(状況) | 何が起きているか |
| T | Timing(時間的影響) | いつまでに影響があるか |
| A | Action(対応策) | どう対応する予定か |
| R | Request(依頼) | 相手に何を求めるか |
適用例1: リリース遅延
S: リリース前テストで決済処理の重大バグが見つかりました。
T: 修正に最低2日かかるため、月曜のリリースに間に合いません。
A: 対応案は2つあります。
A案: リリースを水曜に延期し、バグを修正してからリリース
B案: 決済機能を除外して月曜にリリースし、水曜に決済機能を追加リリース
R: どちらの案で進めるか、判断をお願いします。
また、関係者への連絡はこちらで行います。
適用例2: 見積もり超過
S: ユーザー検索機能の実装が、見積もりの5SPより大幅に複雑でした。
T: 当初の金曜完了が来週水曜にずれ込む見込みです。
A: 全文検索のインデックス設計に想定外の工数がかかっています。
田中さんにフロントエンド部分を先行して進めてもらい、
バックエンドの遅延の影響を最小化します。
R: 来週のスプリントスコープの調整について相談させてください。
適用例3: 自分のミス
S: テスト環境のデータベースを誤って削除してしまいました。
T: テスト環境が使えない状態で、チーム全体のテスト作業に影響しています。
A: バックアップから復元を進めています。2時間以内に復旧見込みです。
再発防止として、削除コマンドに確認プロンプトを追加します。
R: テスト作業中のメンバーへの周知をお願いできますか。
伝え方のNG集
やってはいけないこと
| NG行動 | 理由 | 代わりにすべきこと |
|---|---|---|
| 報告しない・隠す | 問題が大きくなるだけ | 小さいうちに報告する |
| 言い訳から始める | 聞き手の信頼を失う | 事実から始める |
| 他人のせいにする | チームの雰囲気が悪くなる | 自分の関与部分に焦点を当てる |
| 感情的になる | 冷静な判断を妨げる | 事実と対策を淡々と伝える |
| 対策なしで報告する | 「じゃあどうするの?」と言われる | 必ず対応案を用意する |
言い回しの改善例
NG: 「仕様書が曖昧だったので遅れました」
OK: 「仕様の解釈に齟齬があり、手戻りが発生しました。
今後は実装前に仕様確認のレビューを入れます」
NG: 「多分大丈夫だと思います」
OK: 「現時点の情報では対応可能な見込みですが、
調査結果を明日までに報告します」
NG: 「すみません、すみません......」
OK: 「状況の報告が遅れ申し訳ありません。
現在の状況と対策を説明させてください」
報告を受ける側の心構え
チームの心理的安全性を高めるために、報告を受ける側も重要な役割を持ちます。
良い反応
「報告ありがとう。早く教えてくれて助かった」
「原因は後で分析しよう。まず対応を考えよう」
「何かサポートできることはある?」
悪い反応(心理的安全性を壊す)
「なんでもっと早く言わなかったんだ」 ← 次から報告しなくなる
「こんなことも想定できなかったのか」 ← 挑戦を恐れるようになる
「誰のせいだ」 ← 犯人探しの文化になる
エスカレーションの判断基準
どのレベルまでエスカレーションすべきかの判断基準です。
| レベル | 基準 | エスカレーション先 |
|---|---|---|
| チーム内で解決 | 1日以内に解決可能、影響がチーム内 | チームリーダー |
| マネージャーに報告 | スケジュール影響あり、スコープ変更の可能性 | 直属のマネージャー |
| 部門長にエスカレーション | 他チーム・他部門に影響、リリース延期 | 部門長 |
| 経営層にエスカレーション | ビジネスに重大な影響、顧客影響 | CTO/VP |
迷ったら「上」に報告する
エスカレーションが不要だったら「報告ありがとう」で済みます。しかし、エスカレーションが必要だったのにしなかった場合、取り返しがつきません。迷ったら報告する。
まとめ
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 基本原則 | 悪いニュースほど早く伝える |
| フレームワーク | STAR(状況、時間的影響、対応策、依頼) |
| 対策を持つ | 問題だけでなく、対応案をセットで報告する |
| NG行動 | 隠す、言い訳、他責、感情的、対策なし |
| エスカレーション | 迷ったら上に報告する |
チェックリスト
- STARフレームワークで悪いニュースを構成できる
- 対応案をセットで報告する重要性を理解した
- 言い回しのNG例と改善例を知っている
- エスカレーションの判断基準を持っている
次のステップへ
次は演習です。ここまで学んだ報告の基本フレームワーク、デイリースタンドアップ、進捗報告書、悪いニュースの伝え方を使って、報告シミュレーションに挑戦しましょう。
推定読了時間: 30分