委任と依頼の技術
ストーリー
「渡辺さん、タスクが多すぎて回りません。 でも、人に頼むのって苦手で......」
渡辺マネージャーが真剣な顔で言った。
「全てを自分でやろうとするのは、一見責任感があるように見えるが、 実はチームにとってはリスクだ。 自分がボトルネックになるからだ。 適切に委任し、依頼できることも重要なスキルだよ」
なぜ委任が必要なのか
1人で抱え込むリスク
全てを自分でやろうとした場合:
自分の稼働: ████████████████████ (120% → 残業)
タスクA: 遅延
タスクB: 遅延
タスクC: 品質低下
チーム: 「あの人に聞かないとわからない」(属人化)
健康: ストレス増大、バーンアウトリスク
適切に委任した場合:
自分の稼働: ██████████████ (80%)
タスクA: 自分で完了
タスクB: 田中さんが対応
タスクC: 鈴木さんが対応(学習機会にもなる)
チーム: 知識が分散、バスファクター向上
委任をためらう心理とその対処
| ためらいの理由 | 対処法 |
|---|---|
| 「自分でやった方が早い」 | 短期的にはそう。だが中長期的にはチーム全体の速度が上がる |
| 「相手に迷惑をかける」 | 学習機会を提供していると考える。事前に確認すればOK |
| 「自分の仕事がなくなる」 | 委任で空いた時間でより重要な仕事に集中できる |
| 「品質が心配」 | レビューの仕組みで担保する。完璧を求めすぎない |
| 「説明する時間がもったいない」 | 1回の説明で今後何度も任せられるようになる |
委任の判断基準
何を委任するか
委任の判断フロー:
このタスクは自分にしかできない?
├─ Yes → 自分でやる
└─ No → 委任を検討
│
├─ 誰かの成長機会になる?
│ └─ Yes → 積極的に委任(サポート付き)
│
├─ 他の人の方が得意?
│ └─ Yes → 依頼(感謝を忘れずに)
│
└─ 定型的で手順が明確?
└─ Yes → 委任(ドキュメント付き)
委任すべきタスク / すべきでないタスク
| 委任すべき | 委任すべきでない |
|---|---|
| 手順が確立している定型作業 | 機密性の高い判断が必要な作業 |
| 他メンバーの学習機会になるタスク | 自分にしかない知識が必要な作業 |
| 自分が得意でない領域のタスク | 最終的な意思決定 |
| 時間がかか るが単純なタスク | 責任を伴う承認行為 |
効果的な依頼の仕方
依頼の5W1H
明確な依頼には5W1Hが含まれます。
良い依頼の例(Slack メッセージ):
@tanaka さん
【依頼】ユーザー検索APIのコードレビューをお願いします
■ 何を: PR #234 のコードレビュー
■ なぜ: 今週中にマージしてスプリントゴールを達成するため
■ いつまで: 明日(水曜)の午前中
■ どのように: 特にDBクエリのパフォーマンスを見てほしい
■ 補足: 設計書はこちら→ [リンク]
対応可能でしょうか?厳しければ相談させてください。
悪い依頼と良い依頼の比較
| 悪い依頼 | 問題点 | 良い依頼 |
|---|---|---|
| 「これお願い」 | 何をすればいいかわからない | 「PR #234のレビュー お願いします」 |
| 「急ぎで」 | いつまでかわからない | 「明日の午前中までにお願いします」 |
| 「適当にやっといて」 | 品質基準がわからない | 「パフォーマンスの観点で確認してください」 |
| 一方的に投げる | 相手の状況を無視 | 「対応可能ですか?」 |
委任のレベル
委任にはレベルがあり、相手の経験に応じて段階的に任せる範囲を広げます。
5段階の委任レベル
| レベル | 説明 | 例 |
|---|---|---|
| 1. 調査して報告 | 調べて結果を教えて。判断は自分で する | 「〇〇の技術について調査して報告してください」 |
| 2. 提案して承認待ち | 案を考えて持ってきて。承認してから実行 | 「API設計の案を作ってレビューに出してください」 |
| 3. 実行して報告 | やっていいよ。結果を教えて | 「テストを書いて、完了したら教えてください」 |
| 4. 実行して問題時のみ報告 | やっておいて。問題があれば連絡して | 「軽微なバグは自分で判断して修正してOKです」 |
| 5. 完全委任 | 全てお任せ | 「この機能の担当としてお願いします」 |
相手の経験レベルに応じた使い分け
新人(入社〜6ヶ月): レベル1〜2
ジュニア(6ヶ月〜1年): レベル2〜3
ミドル(1〜3年): レベル3〜4
シニ ア(3年以上): レベル4〜5
依頼を受ける側のスキル
委任する側だけでなく、依頼を受ける側のスキルも重要です。
依頼を受ける時の確認事項
依頼を受けた時のチェックリスト:
□ 何をすればゴールか理解したか?
□ 期限はいつか?
□ 優先度はどのくらいか?(今の作業との兼ね合い)
□ 不明点はないか?
□ 必要なリソース(アクセス権、情報など)はあるか?
受けられない時の伝え方
| 状況 | 対応例 |
|---|---|
| 手が空いていない | 「今はAタスクに集中していて、午後3時以降なら着手できます」 |
| 期限が厳しい | 「水曜までは厳しいですが、木曜なら対応可能です」 |
| スキルが不足 | 「経験がないので、サポートがあれば挑戦したいです」 |
| 優先度がわからない | 「今のAタスクとどちらを優先すべきですか?」 |
感謝とフィードバック
委任と依頼の関係を良好に保つために、感謝とフィードバックは不可欠です。
依頼完了後のアクション
1. 成果物を確認する(放置しない)
2. 感謝を伝える
「レビューありがとうございます。指摘のおかげで品質が上がりました」
3. フィードバックを返す
「DBクエリの改善提案、すごく良かったです。次回もぜひお願いします」
4. 必要なら改善点を伝える
「一点、テストケースが漏れていたのでここだけ追加お願いします」
まとめ
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 委任の必要性 | 1人で抱え込むと属人化とバーンアウトのリスク |
| 判断基準 | 自分にしかできないか、成長機会になるか |
| 依頼の仕方 | 5W1Hを含めた明確な依頼 |
| 委任レベル | 相手の経験に応じて5段階で調整 |
| 依頼を受ける側 | ゴール、期限、優先度を確認。断る場合は代案を提示 |
| 感謝 | 完了後の確認、感謝、フィードバックを必ず行う |
チェックリスト
- 委任が必要な理由とためらう心理への対処を理解した
- 5W1Hを含む明確な依頼文を作成できる
- 5段階の委任レベルを使い分けられる
- 依頼を受けられない時の適切な伝え方を知っている
次のステップへ
次は演習です。ここまで学んだ優先順位付け、見積もり、マルチタスク対策、委任の技術を使って、実際に1週間のスプリントを計画してみましょう。
推定読了時間: 30分