LESSON 30分

委任と依頼の技術

ストーリー

「渡辺さん、タスクが多すぎて回りません。 でも、人に頼むのって苦手で......」

渡辺マネージャーが真剣な顔で言った。

「全てを自分でやろうとするのは、一見責任感があるように見えるが、 実はチームにとってはリスクだ。 自分がボトルネックになるからだ。 適切に委任し、依頼できることも重要なスキルだよ」


なぜ委任が必要なのか

1人で抱え込むリスク

全てを自分でやろうとした場合:

  自分の稼働: ████████████████████ (120% → 残業)
  タスクA:    遅延
  タスクB:    遅延
  タスクC:    品質低下
  チーム:     「あの人に聞かないとわからない」(属人化)
  健康:       ストレス増大、バーンアウトリスク

適切に委任した場合:

  自分の稼働: ██████████████ (80%)
  タスクA:    自分で完了
  タスクB:    田中さんが対応
  タスクC:    鈴木さんが対応(学習機会にもなる)
  チーム:     知識が分散、バスファクター向上

委任をためらう心理とその対処

ためらいの理由対処法
「自分でやった方が早い」短期的にはそう。だが中長期的にはチーム全体の速度が上がる
「相手に迷惑をかける」学習機会を提供していると考える。事前に確認すればOK
「自分の仕事がなくなる」委任で空いた時間でより重要な仕事に集中できる
「品質が心配」レビューの仕組みで担保する。完璧を求めすぎない
「説明する時間がもったいない」1回の説明で今後何度も任せられるようになる

委任の判断基準

何を委任するか

委任の判断フロー:

  このタスクは自分にしかできない?
    ├─ Yes → 自分でやる
    └─ No  → 委任を検討
              │
              ├─ 誰かの成長機会になる?
              │   └─ Yes → 積極的に委任(サポート付き)
              │
              ├─ 他の人の方が得意?
              │   └─ Yes → 依頼(感謝を忘れずに)
              │
              └─ 定型的で手順が明確?
                  └─ Yes → 委任(ドキュメント付き)

委任すべきタスク / すべきでないタスク

委任すべき委任すべきでない
手順が確立している定型作業機密性の高い判断が必要な作業
他メンバーの学習機会になるタスク自分にしかない知識が必要な作業
自分が得意でない領域のタスク最終的な意思決定
時間がかかるが単純なタスク責任を伴う承認行為

効果的な依頼の仕方

依頼の5W1H

明確な依頼には5W1Hが含まれます。

良い依頼の例(Slack メッセージ):

  @tanaka さん

  【依頼】ユーザー検索APIのコードレビューをお願いします

  ■ 何を: PR #234 のコードレビュー
  ■ なぜ: 今週中にマージしてスプリントゴールを達成するため
  ■ いつまで: 明日(水曜)の午前中
  ■ どのように: 特にDBクエリのパフォーマンスを見てほしい
  ■ 補足: 設計書はこちら→ [リンク]

  対応可能でしょうか?厳しければ相談させてください。

悪い依頼と良い依頼の比較

悪い依頼問題点良い依頼
「これお願い」何をすればいいかわからない「PR #234のレビューお願いします」
「急ぎで」いつまでかわからない「明日の午前中までにお願いします」
「適当にやっといて」品質基準がわからない「パフォーマンスの観点で確認してください」
一方的に投げる相手の状況を無視「対応可能ですか?」

委任のレベル

委任にはレベルがあり、相手の経験に応じて段階的に任せる範囲を広げます。

5段階の委任レベル

レベル説明
1. 調査して報告調べて結果を教えて。判断は自分でする「〇〇の技術について調査して報告してください」
2. 提案して承認待ち案を考えて持ってきて。承認してから実行「API設計の案を作ってレビューに出してください」
3. 実行して報告やっていいよ。結果を教えて「テストを書いて、完了したら教えてください」
4. 実行して問題時のみ報告やっておいて。問題があれば連絡して「軽微なバグは自分で判断して修正してOKです」
5. 完全委任全てお任せ「この機能の担当としてお願いします」

相手の経験レベルに応じた使い分け

新人(入社〜6ヶ月):      レベル1〜2
ジュニア(6ヶ月〜1年):    レベル2〜3
ミドル(1〜3年):          レベル3〜4
シニア(3年以上):         レベル4〜5

依頼を受ける側のスキル

委任する側だけでなく、依頼を受ける側のスキルも重要です。

依頼を受ける時の確認事項

依頼を受けた時のチェックリスト:

  □ 何をすればゴールか理解したか?
  □ 期限はいつか?
  □ 優先度はどのくらいか?(今の作業との兼ね合い)
  □ 不明点はないか?
  □ 必要なリソース(アクセス権、情報など)はあるか?

受けられない時の伝え方

状況対応例
手が空いていない「今はAタスクに集中していて、午後3時以降なら着手できます」
期限が厳しい「水曜までは厳しいですが、木曜なら対応可能です」
スキルが不足「経験がないので、サポートがあれば挑戦したいです」
優先度がわからない「今のAタスクとどちらを優先すべきですか?」

感謝とフィードバック

委任と依頼の関係を良好に保つために、感謝とフィードバックは不可欠です。

依頼完了後のアクション

1. 成果物を確認する(放置しない)
2. 感謝を伝える
   「レビューありがとうございます。指摘のおかげで品質が上がりました」
3. フィードバックを返す
   「DBクエリの改善提案、すごく良かったです。次回もぜひお願いします」
4. 必要なら改善点を伝える
   「一点、テストケースが漏れていたのでここだけ追加お願いします」

まとめ

ポイント内容
委任の必要性1人で抱え込むと属人化とバーンアウトのリスク
判断基準自分にしかできないか、成長機会になるか
依頼の仕方5W1Hを含めた明確な依頼
委任レベル相手の経験に応じて5段階で調整
依頼を受ける側ゴール、期限、優先度を確認。断る場合は代案を提示
感謝完了後の確認、感謝、フィードバックを必ず行う

チェックリスト

  • 委任が必要な理由とためらう心理への対処を理解した
  • 5W1Hを含む明確な依頼文を作成できる
  • 5段階の委任レベルを使い分けられる
  • 依頼を受けられない時の適切な伝え方を知っている

次のステップへ

次は演習です。ここまで学んだ優先順位付け、見積もり、マルチタスク対策、委任の技術を使って、実際に1週間のスプリントを計画してみましょう。


推定読了時間: 30分