LESSON 25分

優先度マトリクスを使おう

ストーリー

「さっきの3つの依頼、どれから手をつけるか考えてみたか?」

渡辺マネージャーが聞いた。

「えっと......本番バグが一番急ぎですよね?」

「そうだな。でも『急ぎ』だけで判断すると失敗する。 重要度と緊急度、この2つの軸で考える必要がある。 優先度マトリクスを使ってみよう」

渡辺マネージャーはホワイトボードに2x2のマトリクスを描き始めた。


優先度マトリクスとは

優先度マトリクスは、タスクを「緊急度」と「重要度」の2軸で分類するフレームワークです。全てのタスクが「急ぎ」に見える状況で、客観的に優先順位を判断するのに役立ちます。

2つの軸の定義

定義判断基準
緊急度すぐに対応しないと問題が拡大するか期限が迫っているか、放置するとどうなるか
重要度ビジネスやプロジェクトへの影響が大きいか目標達成に直結するか、影響範囲は広いか

4象限の分類

              緊急度 高
                │
     ┌──────────┼──────────┐
     │  Q2      │  Q1      │
     │ 重要だが  │ 重要かつ  │
     │ 急がない  │ 急ぎ     │
重   │          │          │
要   │ 計画的に  │ 最優先で  │
度   │ 取り組む  │ 対応する  │
高 ──┼──────────┼──────────┤
     │  Q4      │  Q3      │
     │ 重要でも  │ 急ぐが   │
     │ 急ぎでも  │ 重要度は  │
     │ ない     │ 低い     │
     │          │          │
     │ 削除or    │ 効率化or │
     │ 後回し   │ 委任     │
     └──────────┼──────────┘
              緊急度 低

各象限の詳細と対応方針

Q1: 重要 かつ 緊急(最優先で対応)

すぐに取り組まなければならないタスクです。

エンジニアの具体例理由
本番環境のバグ・障害ユーザーに直接影響している
セキュリティ脆弱性の対応放置すると被害が拡大する
今日が期限のタスク約束を守る必要がある
ブロッカーになっている他メンバーへの対応チーム全体の進捗に影響

対応方針: 今すぐ着手。他のタスクを中断してでも対応する。

Q2: 重要 だが 緊急ではない(計画的に取り組む)

最も価値のある象限です。ここに時間を多く使えるかが生産性の分かれ目になります。

エンジニアの具体例理由
アーキテクチャの設計・改善長期的な品質に影響
テストの充実、リファクタリング技術的負債の削減
新しい技術の学習将来の生産性向上
ドキュメントの整備チームの知識共有
1on1やキャリアについての振り返り自己成長

対応方針: スケジュールに予め組み込む。毎週決まった時間を確保する。

Q3: 緊急 だが 重要ではない(効率化 or 委任)

「やらなきゃ」という焦りを感じるが、実は重要度が低いタスクです。

エンジニアの具体例理由
形式的な会議への出席自分がいなくても進む
定型的な質問への回答FAQやドキュメントで代替可能
重要でないSlack通知への即応まとめて対応すれば十分
影響範囲の小さい軽微なバグ次のスプリントで対応可能

対応方針: 効率化(テンプレート化、自動化)するか、他の人に委任する。

Q4: 重要でも 緊急でもない(削除 or 後回し)

意識的にやらない判断をする象限です。

エンジニアの具体例理由
現時点で不要な最適化YAGNI原則に反する
使われていない機能の改修投資対効果が低い
SNSの閲覧、雑談の延長生産性に寄与しない

対応方針: タスクリストから削除するか、「いつかやる」リストに移す。


実践:朝の3つの依頼を分類する

ストーリーで出てきた3つの依頼を、優先度マトリクスで分類してみましょう。

依頼の詳細を確認する

依頼詳細を確認した結果
PRレビュー先週金曜に依頼あり。機能開発のPRで、レビュー待ちでブロックされている
API設計ドラフト来週のスプリントプランニングまでに必要。今日中でなくても水曜でOK
本番バグユーザーの10%に影響。決済処理のエラーが断続的に発生

マトリクスへの配置

              緊急度 高
                │
     ┌──────────┼──────────┐
     │          │          │
     │ API設計   │ 本番バグ  │
重   │ ドラフト  │ (決済エラー│
要   │ (Q2)     │  Q1)     │
度   │          │          │
高 ──┼──────────┼──────────┤
     │          │          │
     │          │ PRレビュー │
     │          │ (Q3:      │
     │          │ ブロッカー │
     │          │ なら Q1)  │
     └──────────┼──────────┘
              緊急度 低

判断のポイント

  1. 本番バグ(Q1): ユーザーに影響 + 決済関連 = 最優先
  2. PRレビュー: ブロッカーかどうかで判断が分かれる
    • チームメンバーが完全にブロックされている → Q1に格上げ
    • 他のタスクを進められる → Q3(今日中に対応)
  3. API設計(Q2): 重要だが水曜までにOK → 計画的に時間を確保

優先度判断の実践ガイドライン

ビジネスインパクトで重要度を判断する

レベル影響範囲
Critical全ユーザー、売上に直結サービス全停止、決済不能
High多くのユーザー、主要機能主要機能のバグ、パフォーマンス劣化
Medium一部ユーザー、補助機能特定条件でのUI崩れ
Lowごく少数、見た目のみ誤字、軽微なデザインずれ

時間的制約で緊急度を判断する

レベル基準
即時対応今すぐ(本番障害、セキュリティインシデント)
今日中当日内に完了が必要
今週中週内に完了が必要
今月中月内に完了が必要
いつでも明確な期限なし

迷ったときの判断フロー

タスクが来た
  │
  ├─ ユーザーに直接影響している?
  │    ├─ Yes → Q1(即対応)
  │    └─ No ↓
  │
  ├─ 他のメンバーがブロックされている?
  │    ├─ Yes → Q1 or Q3(相手の緊急度による)
  │    └─ No ↓
  │
  ├─ 今日/明日が期限?
  │    ├─ Yes → Q1(期限を確認)
  │    └─ No ↓
  │
  ├─ プロジェクト目標に直結する?
  │    ├─ Yes → Q2(計画に組み込む)
  │    └─ No ↓
  │
  └─ Q3 or Q4(効率化/委任/削除を検討)

よくある間違い

1. 全てをQ1に入れてしまう

「急ぎ」と言われたからといって、全てが本当に緊急とは限りません。依頼者に確認しましょう。

聞き方の例: 「このタスクの期限はいつですか?」「他のメンバーがブロックされていますか?」

2. Q2を後回しにし続ける

重要だが急がないタスク(設計改善、テスト充実、学習)を常に後回しにすると、いずれQ1(緊急かつ重要)として降りかかってきます。

Q2を放置した結果

テスト不足(Q2)     →  本番バグ頻発(Q1)
ドキュメント不備(Q2) →  チーム内の誤解による手戻り(Q1)
リファクタリング延期(Q2) → 開発速度の低下、大規模障害(Q1)

3. 自分だけで判断する

優先度の判断に迷ったら、マネージャーやチームリーダーに相談しましょう。「AとBのどちらを先にやるべきですか?」と聞くことは、弱さではなく正しい判断力の表れです。


まとめ

ポイント内容
優先度マトリクス緊急度と重要度の2軸で4象限に分類
Q1(重要+緊急)最優先で即対応
Q2(重要+非緊急)最も価値のある象限。計画的に時間を確保
Q3(非重要+緊急)効率化か委任を検討
Q4(非重要+非緊急)削除か後回し

チェックリスト

  • 優先度マトリクスの4象限を説明できる
  • 具体的なタスクを4象限に分類できる
  • Q2の重要性を理解した
  • 迷ったときの判断フローを使える

次のステップへ

次のセクションでは、優先順位をつけた後に実際にタスクを進めるための「タイムマネジメントの技術」を学びます。限られた時間の中で、いかに効率よくタスクを完了させるかを身につけましょう。


推定読了時間: 25分