優先度マトリクスを使おう
ストーリー
「さっきの3つの依頼、どれから手をつけるか考えてみたか?」
渡辺マネージャーが聞いた。
「えっと......本番バグが一番急ぎですよね?」
「そうだな。でも『急ぎ』だけで判断すると失敗する。 重要度と緊急度、この2つの軸で考える必要がある。 優先度マトリクスを使ってみよう」
渡辺マネージャーはホワイトボードに2x2のマトリクスを描き始めた。
優先度マトリクスとは
優先度マトリクスは、タスクを「緊急度」と「重要度」の2軸で分類するフレームワークです。全てのタスクが「急ぎ」に見える状況で、客観的に優先順位を判断するのに役立ちます。
2つの軸の定義
| 軸 | 定義 | 判断基準 |
|---|---|---|
| 緊急度 | すぐに対応しないと問題が拡大するか | 期限が迫っているか、放置するとどうなるか |
| 重要度 | ビジネスやプロジェクトへの影響が大きいか | 目標達成に直結するか、影響範囲は広いか |
4象限の分類
緊急度 高
│
┌──────────┼──────────┐
│ Q2 │ Q1 │
│ 重要だが │ 重要かつ │
│ 急がない │ 急ぎ │
重 │ │ │
要 │ 計画的に │ 最優先で │
度 │ 取り組む │ 対応する │
高 ──┼──────────┼──────────┤
│ Q4 │ Q3 │
│ 重要でも │ 急ぐが │
│ 急ぎでも │ 重要度は │
│ ない │ 低い │
│ │ │
│ 削除or │ 効率化or │
│ 後回し │ 委任 │
└──────────┼──────────┘
緊急度 低
各象限の詳細と対応方針
Q1: 重要 かつ 緊急(最優先で対応)
すぐに取り組まなければならないタスクです。
| エンジニアの具体例 | 理由 |
|---|---|
| 本番環境のバグ・障害 | ユーザーに直接影響している |
| セキュリティ脆弱性の対応 | 放置すると被害が拡大する |
| 今日が期限のタスク | 約束を守る必要がある |
| ブロッカーになっている他メンバーへの対応 | チーム全体の進捗に影響 |
対応方針: 今すぐ着手。他のタスクを中断してでも対応する。
Q2: 重要 だが 緊急ではない(計画的に取り組む)
最も価値のある象限です。ここに時間を多く使えるかが生産性の分かれ目になります。
| エンジニアの具体例 | 理由 |
|---|---|
| アーキテクチャの設計・改善 | 長期的な品質に影響 |
| テストの充実、リファクタリング | 技術的負債の削減 |
| 新しい技術の学習 | 将来の生産性向上 |
| ドキュメントの整備 | チームの知識共有 |
| 1on1やキャリアについての振り返り | 自己成長 |
対応方針: スケジュールに予め組み込む。毎週決まった時間を確保する。
Q3: 緊急 だが 重要ではない(効率化 or 委任)
「やらなきゃ」という焦りを感じるが、実は重要度が低いタスクです。
| エンジニアの具体例 | 理由 |
|---|---|
| 形式的な会議への出席 | 自分がいなくても進む |
| 定型的な質問への回答 | FAQやドキュメントで代替可能 |
| 重要でないSlack通知への即応 | まとめて対応すれば十分 |
| 影響範囲の小さい軽微なバグ | 次のスプリントで対応可能 |
対応方針: 効率化(テンプレート化、自動化)するか、他の人に委任する。
Q4: 重要でも 緊急でもない(削除 or 後回し)
意識的にやらない判断をする象限です。
| エンジニアの具体例 | 理由 |
|---|---|
| 現時点で不要な 最適化 | YAGNI原則に反する |
| 使われていない機能の改修 | 投資対効果が低い |
| SNSの閲覧、雑談の延長 | 生産性に寄与しない |
対応方針: タスクリストから削除するか、「いつかやる」リストに移す。
実践:朝の3つの依頼を分類する
ストーリーで出てきた3つの依頼を、優先度マトリクスで分類してみましょう。
依頼の詳細を確認する
| 依頼 | 詳細を確認した結果 |
|---|---|
| PRレビュー | 先週金曜に依頼あり。機能開発のPRで、レビュー待ちでブロックされている |
| API設計ドラフト | 来週のスプリントプランニングまでに必要。今日中でなくても水曜でOK |
| 本番バグ | ユーザーの10%に影響。決済処理のエラーが断続的に発生 |
マトリクスへの配置
緊急度 高
│
┌──────────┼──────────┐
│ │ │
│ API設計 │ 本番バグ │
重 │ ドラフト │ (決済エラー│
要 │ (Q2) │ Q1) │
度 │ │ │
高 ──┼──────────┼──────────┤
│ │ │
│ │ PRレビュー │
│ │ (Q3: │
│ │ ブロッカー │
│ │ なら Q1) │
└──────────┼──────────┘
緊急度 低
判断のポイント
- 本番バグ(Q1): ユーザーに影響 + 決済関連 = 最優先
- PRレビュー: ブロッカーかどうかで判断が分かれる
- チームメンバーが完全にブロックされている → Q1に格上げ
- 他のタスクを進められる → Q3(今日中に対応)
- API設計(Q2): 重要だが水曜までにOK → 計画的に時間を確保
優先度判断の実践ガイドライン
ビジネスインパクトで重要度を判断する
| レベル | 影響範囲 | 例 |
|---|---|---|
| Critical | 全ユーザー、売上に直結 | サービス全停止、決済不能 |
| High | 多くのユーザー、主要機能 | 主要機能のバグ、パフォーマンス劣化 |
| Medium | 一部ユーザー、補助機能 | 特定条件でのUI崩れ |
| Low | ごく少数、見た目のみ | 誤字、軽微なデザインずれ |
時間的制約で緊急度を判断する
| レベル | 基準 |
|---|---|
| 即時対応 | 今すぐ(本番障害、セキュリティインシデント) |
| 今日中 | 当日内に完了が必要 |
| 今週中 | 週内に完了が必要 |
| 今月中 | 月内に完了が必要 |
| いつでも | 明確な期限なし |
迷ったときの判断フロー
タスクが来た
│
├─ ユーザーに直接影響している?
│ ├─ Yes → Q1(即対応)
│ └─ No ↓
│
├─ 他のメンバーがブロックされてい る?
│ ├─ Yes → Q1 or Q3(相手の緊急度による)
│ └─ No ↓
│
├─ 今日/明日が期限?
│ ├─ Yes → Q1(期限を確認)
│ └─ No ↓
│
├─ プロジェクト目標に直結する?
│ ├─ Yes → Q2(計画に組み込む)
│ └─ No ↓
│
└─ Q3 or Q4(効率化/委任/削除を検討)
よくある間違い
1. 全てをQ1に入れてしまう
「急ぎ」と言われたからといって、全てが本当に緊急とは限りません。依頼者に確認しましょう。
聞き方の例: 「このタスクの期限はいつですか?」「他のメンバーがブロックされていますか?」
2. Q2を後回しにし続ける
重要だが急がないタスク(設計改善、テスト充実、学習)を常に後回しにすると、いずれQ1(緊急かつ重要)として降りかかってきます。
Q2を放置した結果
テスト不足(Q2) → 本番バグ頻発(Q1)
ドキュメント不備(Q2) → チーム内の誤解による手戻り(Q1)
リファクタリング延期(Q2) → 開発速度の低下、大規模障害(Q1)
3. 自分だけで判断する
優先度の判断に迷ったら、マネージャーやチ ームリーダーに相談しましょう。「AとBのどちらを先にやるべきですか?」と聞くことは、弱さではなく正しい判断力の表れです。
まとめ
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 優先度マトリクス | 緊急度と重要度の2軸で4象限に分類 |
| Q1(重要+緊急) | 最優先で即対応 |
| Q2(重要+非緊急) | 最も価値のある象限。計画的に時間を確保 |
| Q3(非重要+緊急) | 効率化か委任を検討 |
| Q4(非重要+非緊急) | 削除か後回し |
チェックリスト
- 優先度マトリクスの4象限を説明できる
- 具体的なタスクを4象限に分類できる
- Q2の重要性を理解した
- 迷ったときの判断フローを使える
次のステップへ
次のセクションでは、優先順位をつけた後に実際にタスクを進めるための「タイムマネジメントの技術」を学びます。限られた時間の中で、いかに効率よくタスクを完了させるかを身につけましょう。
推定読了時間: 25分